イヌイット・パラドックス


エスキモーに“心臓病”が少ない理由

 

必須脂肪酸の摂取比率が崩れたことによって「プロスタグランジン」のアンバランスが生じ、さまざまな現代病が引き起こされていますが、それを証明する有名な疫学研究を挙げておきます。1960年代にデンマークの研究者によって始められた、エスキモー(イヌイット)とデンマーク人の比較研究です。

 

西グリーンランドに住むエスキモーは、伝統的にカロリーの70%を脂肪から摂るという世界一脂肪の多い食事をしていました。現代のアメリカ人の食事は、カロリーの40%を脂肪から摂り、その異常さが指摘されていますが、エスキモーは、それをはるかに上回る大量の脂肪を摂っていました。しかも野菜は、ほんのわずかしか摂っていませんでした。栄養学の常識から考えれば、これでは心臓病や脳卒中などの循環器系疾患が増えて当然です。

 

ところが実際には、心臓病になる人が極端に少ないのです。これが研究者の注目を集めることになり、調査・研究が開始されました。エスキモーの食事の内容や生活習慣・遺伝的な要因などが、長期にわたって多くの研究者によって調査されました。

 

その結果、エスキモーの健康の秘密が、彼らの食事にあったことが明らかにされたのです。調査によれば、当時デンマークの都会に住む人たちの脂肪の摂取量は、エスキモーとほぼ同じくらいでした。それなのにデンマークでは、エスキモーの10倍もの国民が心臓病で死んでいます。こうした事態を招いている原因は何かと言えば、摂取している脂肪の違いにありました。エスキモーの食事には圧倒的に「オメガ3系」の脂肪酸が多く含まれていたのです。オメガ6系の脂肪酸と飽和脂肪酸はデンマーク人の約半分でした。摂っている脂肪の総量はほとんど同じでしたが、脂肪酸の違いが、心臓病による死亡率の決定的な違いとなったのです。

 

なぜエスキモーの摂っている脂肪には「オメガ3」が多かったかというと、彼らの食べ物のほとんどが、生の魚やアザラシ・セイウチなどの海獣だったからです。こうした海に住む動物には、EPAやDHAというオメガ3系の脂肪酸がたっぷり含まれています。「EPA」からつくられるプロスタグランジンは血液の粘度を下げ、サラサラと流れやすくする性質をもっているのです。(※オメガ3を大量に摂っていたエスキモーの血液は固まりにくく、出血するとなかなか血が止まらないことが問題でした。)

 

それに対してデンマーク人の摂取している脂肪の多くは、現代の欧米人と同じ飽和脂肪酸やオメガ6脂肪酸だったのです。血液中の脂質に含まれる「アラキドン酸」(※アラキドン酸からつくられるプロスタグランジンは血栓を増やす)の割合は、デンマーク人の方がエスキモーより10倍も高く、逆にEPAは、エスキモーの方が36倍も高いことが確かめられています。「オメガ3」と「オメガ6」の摂取比率の狂いが、デンマーク人の間に心臓・血管系の病気を引き起こしていたのです。

 

もっとも、そうした心臓病とは無縁だったエスキモーも、定住政策によって欧米型の食事を取り入れるようになると、わずかのうちに欧米人と同じ病気で苦しむようになりました。伝統的な生活を捨て、食事内容を一変させたことで、心臓病や糖尿病が多発するようになったのです。


参考:DHAを効果的に摂取するには発酵タラ肝油がお薦めです。